総額主義と純額主義

みなさんこんにちは、税理士の古見です。東京の文京区という所で税理士事務所を開業しております。こちらのブログを平日限定ですが毎日更新しています。

今週もよろしくお願いいたします。

二つの取引が混合する取引を会計処理する場合の考え方として総額主義と純額主義というものがあります。今回はそのお話です。

まずがどのような取引が該当するのかを具体的に見ていくことにします。

例)得意先から売上代金110万円が15万円の手数料を差し引かれて95万円入金されてきた

①総額主義

(借方)現預金 110万円   (貸方)売上  110万円

(借方)手数料  15万円   (貸方)現預金  15万円

②純額主義

(借方)現預金  95万円   (貸方)売上   95万円

※このように総額主義とは相殺取引を相殺しないで複数の取引に分解して記録することを言い、純額主義とは相殺したまま記録することを言います。

両者で利益(95万円)に違いがないことがわかります。ではどちらでも良いはずですね。でも総額主義でなくてはいけません。なぜか。消費税の計算にかかわってくるからです。

法人税・所得税ともに利益をベースに計算する税金ですので利益が正確に算出されているのであれば基本的には問題ありません(それでも税法の解釈上は総額主義でなければなりませんが。そのあたりのお話についてはまたの機会とさせていただきます)。しかしながら消費税の計算においては総額主義が絶対です。

①基準期間における課税売上高が進行期における課税事業者か否かの判定基準となるから

先ほどの例における総額主義と純額主義とでは売上高が110万円と95万円となります。同様の取引が合わせて10件あった場合の総売上高は1100万円と950万円です。これが基準期間(基本的には当期の2期前の年度です)だとした場合、総額主義をとっていれば当期は課税事業者、純額主義の場合は免税事業者となります(基準期間における売上高が1千万円超の場合に当期は課税事業者となります)。この判定は非常に重大ですのでこのようなことを許してしまうと課税の公平が保てませんので総額主義が絶対なのです。

②簡易課税では売上にかかる消費税のみで納付すべき税額を計算するから

総額主義と純額主義で売上高が違いますので預かった消費税の金額が総額主義の方が大きくなりますので簡易課税制度の下では総額主義の方が納付税額が大きくなってしまいます。これもやはり課税の公平が図られていませんので総額主義が絶対ですよということになります。

具体例のような取引を経理処理するときは相殺して記録しがちですがそれは誤っていますのでご注意ください。

東京都文京区の税理士です

 

 

これ経費にできますか

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これ経費にできますか。納税者の方にとって税務処理上判断が難しいものの一つでしょう。その代表例といっても過言ではないと思います。この判断が容易に行えるのであればあとは売上さえもれなく計上することにより利益が確定できますので税金の計算までスムーズに進むことができます。

しかしながら一筋縄でいかないのが実際のところです。我々税理士でもその業界に精通していないと判断に困ることがありますから。

個別の事情を考慮したうえで個々に判断していく、それしかないのですがそれでも判断をする上での大原則というものがあるのも事実です。この大原則を抑えてさえいれば大抵の場面にも対応できるんですね。

それはその支出が売上に貢献している(事業関連性とも言います)かどうかを他者(特に税務当局)に合理的に説明ができるかどうか、です。これができれば怖いものはありません。この原則に従えば金額の大小、支払先等世の中で都市伝説的に言われていることは気にしなくてもよいことがわかります。なお、「合理的に」には経済合理性も当然含みますので特に金額の大小についてはそこで一定の歯止めがかけられていることになります。例えば10万円の売り上げを欲しいがために100万円かけて接待をする、というのは経済合理性に欠けるので結果として合理的に説明ができないということになりますね。

もう一つ経費について重要なテーマがあります。以前お話した家事関連費です。家事関連費とは一つの支出で事業関連支出と私的支出の2つの性質を有しているもののうち経費とできるものを言います。ここで経費にできるとは支出のうち事業に関連している部分をこれもやはり合理的に算出できるかどうか、そして算出できたものが経費として認められる、そういったものです。ご自宅でお仕事をしている場合の光熱費、マイカーをお仕事でも使用している場合のガソリン代・税金等、などなどですね。これもみなさんの頭を悩ませるところではないでしょうか。エイヤーと半々で!などというケースも少なくないと思います。そこもやはりエイヤーではなく合理的な按分割合を設定することが重要となります(場合によっては非常に難しいですが、、、)。

以上を考慮していただければ大抵の経費の正当性が判断できるのかなと思います。よろしければご参考になさってください。

今週もご覧いただき誠にありがとうございました。

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外注費と給与の判定

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前回の続きのお話です。

外注費と給与。何が税務上の取り扱いが異なるのかをまず見ていくことにします。

①消費税

外注費は仕入税額控除できるが給与はできない

②源泉所得税

天引きすべき所得税の計算方法が異なる。外注の場合には適用外の職種であれば  天引きの必要なし

このような違いがあります。このことにより一般的には外注費として取り扱うことができれば支払者側にとっては税務上有利となります。

そこで支払者側で有利な取り扱いである外注費として処理をしたところ税務当局から指摘を受けて給与として取り扱いなさいとされ追徴税額が科されるというのがこれまでの税務訴訟の流れです。

代表的な有名な裁判例である「教育機関等に派遣した講師等に対して支払った金員が給与所得に当たるとされた事例」(平成25年4月26日東京地裁)は、教育機関などから依頼を受けた納税者が業務委託契約を締結していた講師を派遣し、その報酬として支払った金銭につき給与に該当しないものとして源泉徴収をせず、消費税の計算上仕入税額控除を適用するという税務上の処理を行ったところ税務当局からその金銭は給与に該当すると指摘され、裁判で争われることとなったというものです。

裁判所は、

①金銭は業務遂行または労務提供の対価としての性質を有する

②講師による労務の提供は非独立的なものである

③講師は直接的または間接的に納税者の監督下に置かれている

④講師は納税者から空間的・時間的な拘束を受けている

以上の理由により当該金銭は給与に該当すると結論付けました。

業務委託契約か雇用契約かという外観ではなく両者の関係性を実質で判断しなさいよというものです。ここでは報酬の受け取り側が支払者側からの独立性をある程度確保しているかということが重要になってきます。ちなみに②においては講義の良し悪しにかかわらず時間数に応じた報酬を支払っていたなどの事実認定をもとに非独立的であるとされました。雇用関係にあるのと何ら変わりがないでしょうということですね。

契約の形式にとらわれず実質で判断されますので外注費として計上するのであれば独立性を確保するなどの用意が必要となる案件です。

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タニタさんがやってくれてました

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㈱タニタ(体重計で有名な)が既に採用しておりました。何の話かと申しますと社員との業務委託契約です。希望する社員との間で雇用契約ではなく業務委託契約を締結する、そんな制度を既に導入をしておられます。導入してから2年半ほど経過し導入者は増えてきているそうです。

この場合社員の方は正確には社員ではなく個人事業主ということになります。㈱タニタから業務を請け負い、収入等は事業所得として確定申告するということですね。

仕事をお願いする側もされる側も意識が大きく変わったそうです。お願いする側はこの仕事残業になるから頼みずらいなあと今までなら躊躇しそうなケースでも外注に出すんだということで割り切りができるし、外注として出すのであれば余分な仕事は出せないので業務を精査することにもつながります。また受ける側も今までならうわぁ残業になるからいやだなぁと思っていたことでもこの仕事をもらえばこれだけ売上が増えるんだということで積極的に仕事をとるようになる。ということで双方にとって導入はよかったとおっしゃっておられます。

この制度がすべての企業に浸透するのが果たして良いことかどうかは正直なところ何とも言えません。導入企業が少ないことでまだ目立った問題点が出きってないからです。しかしながら新しい試みとして大変注目すべきところですね。

ところでこのニュースに関連して少し気になる記事を見かけました。その記事の執筆者によると会社側のメリットとして消費税の節税になるのではないか、ということでしたが必ずしもそれは当てはまらない可能性があるのです。

詳しくは次回見ていきますが今回のケースでは元社員である個人事業主に対する支払いが外注費ではなく給与に該当すると判断される場合があるのです。外注費に該当すれば消費税の課税取引ですので会社側では元社員に外注先に支払った消費税を納付すべき消費税の計算上引くことができますが給与に該当すると判断されると消費税の課税対象外取引ですので引くことができずその分だけ消費税の納付額が増える、そういう理屈です。

代表的な裁判例をまじえながら次回見ていくことにします。

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不動産賃貸業はむずかしいですね

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今朝の日経新聞にサラリーマン大家についての記事が掲載されておりました。サラリーマン大家とは会社勤めをしながら不動産賃貸業を営んでらっしゃる方を言うそうです。

その中でこの業界では著名な経営者が新規の融資を金融機関から断られた、とありました。スルガ銀行がずさんな投資用シェアハウスへの融資を行ったことを金融庁は重く受け止め、以降特に不動産賃貸業に対する融資については運用を厳格化するようにお達しを出したためこのようなことがあちこちで起きてしまっているようです。

一昔前までは相続税対策と言えばまずはアパート経営、という税理士がほとんどでした。アパートつまり所有物件を他人に賃貸することにより物件自体の相続税評価額を大幅に下げることができるので節税効果が大きいですよ、という理屈です。でも未だにそれを持ち出す税理士はほぼおりません(いたとしたらちょっと??ですが)。なぜか。相続税対策には確かになるかもしれませんがアパート経営にまつわるリスクがそれを上回るであろうからです。アパート経営にまつわるリスクというのは様々あります。少子高齢化・人口減(特に大都市圏以外)・店子が起こすトラブルなどなどですね。

こちらで再三触れておりますが昔アパートを何棟も持ってらっしゃる納税者の方からさんざん「アパート経営などやるもんじゃないよ」と聞かされたことがあります。その方は店子が起こすトラブルについて頭を抱えてらっしゃったようです。扱う物件数が多ければ多いほどそのリスクは一般的に高まりますから手を広げれば広げるほどそういった悩みを抱えることになりますね。

日当たりが良い物件もいつの間にか周りに高い建物が建ってしまいほとんど日が当たらなくなるなどということもよくあります。私も以前賃借していた物件がそうでした。入居当時窓がある側には高い建物が無くとても日当たりが良かったので即決しました。ところが1年ほど経過した時に一軒、さらにそれから1年後にもう一軒隣接する場所に高い建物が建ってしまいとても日当たりが悪くなっていまったという経験があります。不動産にはそうしたリスクもあるんです。

そうしたこともあり今では相続税対策としてアパート経営がいいですよ、などという税理士は少なくとも知っている方ではいなくなりました。

今不動産賃貸業をやろうと検討されてらっしゃる方はそのあたりを慎重にご検討いただけたらなと思います。

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個人事業はこれで資金繰りが苦しくなります

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法人と違って個人事業主のみが意識しなければならないものがあります。それは源泉徴収です。法人が他者からいただく売上について基本的に所得税が天引きされることはありません。しかしながら個人事業の場合には売上から所得税が天引きされる場合があります。それを意識しないと資金繰りに影響が出てきてしまう、そういうお話です。

所得税法第204条に対象となる職種が限定列挙されていて、それにあてはまる売上については支払者側で所得税を天引きする義務があります。これを怠った場合には支払者側に源泉徴収義務違反による一定のペナルティが科せられてしまいます。

では天引きされる所得税は果たしてどのくらいか。基本的には支払額の10%です(現時点ではこれに復興所得税の0.21%が加算されます)。該当の職種の方はこの10%が天引きされるということを是非頭に入れておいてください。そうしないと月々の資金繰りがおかしなことになりますから。特に予算を組むときには注意が必要となります。

ちなみにこの天引きされた所得税は天引きされたままなのかというとそうではありません。翌年の確定申告時に支払う所得税の前払いとしての性質を有しております。ですから確定申告時に清算されるのです。具体的にはこうです。1年間の天引きされた所得税が100万円、確定申告時に納めるべき所得税が60万円だとすると40万円が前払いし過ぎだったということで申告することにより税務署から還付されます。ですから税務署からの還付金って何か得した気分になりますが実はそうではありません。このようにご自身が払ったものが戻ってきただけですからね。

法人化することにより所得税の天引きから解放されますので毎月の資金繰りがそれだけ楽になります。そういった視点で法人化を検討するのも職種によってはあるんですね。

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夫婦間の経費の支払について

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配偶者に対する経費の支払は原則として所得税法第56条により経費になりません。これが各々独立した事業を営んでいた場合についても例外ではありません。

過去にこれに関連する裁判についての代表的な判例が2つあります。2例とも納税者が配偶者の営む事業から受ける役務の対価として支払った経費を必要経費として算入することを認める主張をしたのに対し税務当局がそれを否認したものでした。2つの裁判ともに最高裁まで争われてともに税務当局が勝訴しております。ちなみにこれらの裁判は「弁護士夫婦事件」・「妻税理士事件」の名で知られております。ここではそのうち妻税理士事件についてざっと見ていくことにします。

弁護士である夫が自身の確定申告の申告代理手数料として税理士である妻へ報酬を支払いそれを夫が自身の事業所得の計算上必要経費に算入して確定申告をしたところ税務当局から当該経費は所得税法第56条により必要経費算入を否認されました。

所得税法第56条の適用要件は

①対価の受取人が生計一親族であること

②対価の受取人が納税者の事業に従事していること

であり、この2要件が満たされる限り個別の事情にかかわらず、同条が適用される。このような一審判決を上級審でも支持し、結局税務当局が勝訴をしたというものです。

①はともかく②については少し疑問の残るところでしょう。事業に従事というのは一般的には納税者の営む事業から給与を得ている、そんなイメージではないでしょうか。当事案は夫である弁護士の所得税の申告を妻である税理士が税務代理をしたというものですから少し違和感を感じます。妻は夫とは独立して事業を営んでおり自身の事業に従事していると考えるの普通でしょう。しかしながらこの妻税理士事件および弁護士夫婦事件ともに同様の結論に至ったことから今のところこのような税務上の処理は甘んじて受けるしかなさそうです。

この所得税法第56条についてはもはや時代遅れだという意見が大勢を占めており廃止を含めた見直しが議論されているところではありますが。

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資金が寝るとは?

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今回は資金が寝る、についてのお話です。

ん、資金(お金)が寝る?、、、どういうことでしょうか。経営者の方と日ごろ資金繰りのお話をさせていただく中でよくこのお金が寝ないために気を付けていると伺うことがあります。お金が寝るというのはお金が換金困難な資産に化けてしまっている状態を言います。資金が塩漬けになるとも言います。なぜ資金が寝ることは悪いことなんでしょうか。

会計の世界では換金性の高いものがいわゆるお金(キャッシュ)に当てはまるとされています。現金・預金がその代表例ですね。お金はその使い道が自由でかつ決済手段となりますので様々な経営判断を実行するには欠かせないものとなりますし、多ければ多いほど選択肢の幅は広がります。ですからなるべく多く手元に持っておきたいところなんですね。

例えば1千万円の車を購入する場合、会社に資金の余裕がある時は現金で一括購入することもあります。現金で購入すれば金利の負担がありませんのでローンで購入した場合に比べて支払額が少なく済む結果となります。では余裕がある時は一括購入が絶対に良いかというと必ずしもそうではないということなんですね。

車の購入後に何か投資をしたい案件があったとしてそれには多額の資金が必要となったとします。その時に先の1千万円があれば迅速に投資を実行できたのにそれが不足したため機会を逃してしまったとしたら会社にとっては非常に残念なことです。いわゆる機会損失というものですね。

ですから会社にたとえ余裕資金があったとしても資産はローンで購入するという考え方は十分にあり得ます。金利の分をケチったがため大きなチャンスを逃してしまうリスクがあるからです。時には金利をチャンスを得るためのコストだという考え方も必要となるということですね。

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老舗企業が窮地に立たされているそうです

みなさんこんにちは、税理士の古見です。東京の文京区という所で税理士事務所を開業しております。こちらのブログを平日限定ですが毎日更新しています。

今朝の日経新聞の記事に「老舗企業倒産など最多」とありました。創業から100年以上のいわゆる老舗企業の倒産などの件数が2018年度に465件となり2000年度以降最多を更新しました(帝国データバンク調べ)。

人手不足、後継者難が深刻化しています。100年続くような老舗企業も例外ではないということなんですね。

外的要因例えば革新的な技術の開発、代替品の発明などによる廃業はいた仕方ない部分もありますが後継者難は非常に残念です。市場のニーズがあるのに撤退せざるを得ないとなると何と無念なことでしょう。

以前伺った話です。ある特殊な素材を製造している企業がありその技術は世界でもその会社にしかないというところがあります。その会社は社長と他にパートさんが一人という体制です。社長は高齢で後継者もいらっしゃらないとのこと。もしもこの会社が廃業に追い込まれれば困ってしまう顧客がたくさんいることでしょう。

このようないわば零細ながら超優良企業の社長が気軽に相談を持ち掛けられる、そんな仕組みができればいいなと思う次第です。

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贈与税は軽減されますが、、、

みなさんこんにちは、税理士の古見です。東京の文京区という所で税理士事務所を開業しております。こちらのブログを平日限定ですが毎日更新しています。

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相続時精算課税、みなさんはお聞きになったことがあるでしょうか。贈与時の贈与税を軽減し、課税を相続時まで繰り延べるというのがこの制度の概要です。贈与時の贈与税を軽減することにより高齢の親から子への財産の移転を促進し、経済の活性化を図ろうというのがこの相続時精算課税制度創設の趣旨なんですね。

ではその仕組みを見ていくことにします。

贈与税額=(贈与財産の価格-2,500万円(特別控除)) × 20%

と通常の贈与税とは異なる計算方法を採用しております。ちなみに通常の贈与税の計算方法は

贈与税額=(贈与財産の価格-基礎控除110万円) × 贈与税の税率

です。

相続時精算課税の適用要件は以下の通りです。

①贈与者(贈与をする側)の年齢が60歳以上である(一部例外あり)

②受贈者(贈与を受ける側)の年齢が20歳以上である

③贈与者は受贈者の直系尊属(父母・祖父母などの自分より上の代の方ですね)であり、受贈者はその贈与者の推定相続人※である

※推定相続人とはある時点において仮に贈与者が亡くなった場合にその時点でその贈与者の相続人である方を言います。

③によりお孫さんでご両親がご存命の場合はこの制度の適用を受けることができないことになります(お孫さんは推定相続人ではないからです)。

2つの贈与税の計算式を見比べた時に相続時精算課税の方がとても優遇されているな、というのがわかりますね。何せ特別控除として2,500万円も引くことができますすなわち2,500万円までは贈与税がかかりませんよということですからね。ところが周りでこの制度を使っている、ということを聞いたことがある方はほとんどいらっしゃらないのではないでしょうか。もちろんかなり個人情報的なことですのでそもそもそのような話を赤の他人にしたりはしないでしょうが、でも巷であふれている節税セミナーなどでもこの制度を全面的に押し出してくるようなものはほとんど見られません。それはなぜでしょうか。

使い勝手が悪い、その一言につきます。どういうことでしょうか。一度この制度を選択すると贈与者が亡くなるまで強制適用となります。初めの方に申し上げたようにあくまでも軽減されるのは贈与時の贈与税です。最終的にこの制度の適用を受けて贈与された財産は贈与時の価格で相続財産の一部を構成されることになりますので相続税の課税は受けることになるんですね。ただしその場合はすでに納めた贈与税を相続税から引くことができます。ですから「相続時精算」なんです。では次に強制適用となるデメリットを見ていくことにします。

①贈与時の価格で相続財産の一部を構成することになる

贈与時の価格よりも相続時の価格の方が下落した場合にはこの制度を選択しなかったときに比して相続税の負担が増えることになります。ですから期間の経過とともに価値の下がるもの(建物など)はこの制度による贈与をしない方が良いこととなります。

②贈与税の基礎控除110万円が使えない

これも大きなデメリットです。先の記した算式の通り相続時精算課税による贈与を選択すると贈与税の計算式の中に基礎控除という言葉が無くなってしまいます。つまり通常の贈与であれば適用できる基礎控除110万円の享受を受けることができなくなるのです。この基礎控除は毎年受けることができますので結果として10年で1,100万円、20年で2,200万円もの基礎控除をふいにしてしまうことになります。これは痛いですね。

とはいえ、贈与者が亡くなった場合の相続税が出ないことが見込まれるのであれば2,500万円までの贈与ですと贈与税も相続税もかかりませんのでうまく使えればメリットがある制度ではあります。

選択については慎重なご検討が必要となりますのでご注意ください。

東京都文京区の税理士です