みなさんこんにちは、税理士の古見です。東京の文京区という所で税理士事務所を開業しております。こちらのブログを平日限定ですが毎日更新しています。
今週もよろしくお願いいたします。
相続時精算課税、みなさんはお聞きになったことがあるでしょうか。贈与時の贈与税を軽減し、課税を相続時まで繰り延べるというのがこの制度の概要です。贈与時の贈与税を軽減することにより高齢の親から子への財産の移転を促進し、経済の活性化を図ろうというのがこの相続時精算課税制度創設の趣旨なんですね。
ではその仕組みを見ていくことにします。
贈与税額=(贈与財産の価格-2,500万円(特別控除)) × 20%
と通常の贈与税とは異なる計算方法を採用しております。ちなみに通常の贈与税の計算方法は
贈与税額=(贈与財産の価格-基礎控除110万円) × 贈与税の税率
です。
相続時精算課税の適用要件は以下の通りです。
①贈与者(贈与をする側)の年齢が60歳以上である(一部例外あり)
②受贈者(贈与を受ける側)の年齢が20歳以上である
③贈与者は受贈者の直系尊属(父母・祖父母などの自分より上の代の方ですね)であり、受贈者はその贈与者の推定相続人※である
※推定相続人とはある時点において仮に贈与者が亡くなった場合にその時点でその贈与者の相続人である方を言います。
③によりお孫さんでご両親がご存命の場合はこの制度の適用を受けることができないことになります(お孫さんは推定相続人ではないからです)。
2つの贈与税の計算式を見比べた時に相続時精算課税の方がとても優遇されているな、というのがわかりますね。何せ特別控除として2,500万円も引くことができますすなわち2,500万円までは贈与税がかかりませんよということですからね。ところが周りでこの制度を使っている、ということを聞いたことがある方はほとんどいらっしゃらないのではないでしょうか。もちろんかなり個人情報的なことですのでそもそもそのような話を赤の他人にしたりはしないでしょうが、でも巷であふれている節税セミナーなどでもこの制度を全面的に押し出してくるようなものはほとんど見られません。それはなぜでしょうか。
使い勝手が悪い、その一言につきます。どういうことでしょうか。一度この制度を選択すると贈与者が亡くなるまで強制適用となります。初めの方に申し上げたようにあくまでも軽減されるのは贈与時の贈与税です。最終的にこの制度の適用を受けて贈与された財産は贈与時の価格で相続財産の一部を構成されることになりますので相続税の課税は受けることになるんですね。ただしその場合はすでに納めた贈与税を相続税から引くことができます。ですから「相続時精算」なんです。では次に強制適用となるデメリットを見ていくことにします。
①贈与時の価格で相続財産の一部を構成することになる
贈与時の価格よりも相続時の価格の方が下落した場合にはこの制度を選択しなかったときに比して相続税の負担が増えることになります。ですから期間の経過とともに価値の下がるもの(建物など)はこの制度による贈与をしない方が良いこととなります。
②贈与税の基礎控除110万円が使えない
これも大きなデメリットです。先の記した算式の通り相続時精算課税による贈与を選択すると贈与税の計算式の中に基礎控除という言葉が無くなってしまいます。つまり通常の贈与であれば適用できる基礎控除110万円の享受を受けることができなくなるのです。この基礎控除は毎年受けることができますので結果として10年で1,100万円、20年で2,200万円もの基礎控除をふいにしてしまうことになります。これは痛いですね。
とはいえ、贈与者が亡くなった場合の相続税が出ないことが見込まれるのであれば2,500万円までの贈与ですと贈与税も相続税もかかりませんのでうまく使えればメリットがある制度ではあります。
選択については慎重なご検討が必要となりますのでご注意ください。